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知っ得コラム

骨粗鬆症の概要:高齢者ケアにおける重要性

医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長 富岡義仁

2024.9.9(月)

整形外科専門医として、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は高齢者の健康において極めて重要なテーマです。骨粗鬆症とは、骨の密度や質が低下し、骨が脆くなってしまう疾患です。

この病気は特に高齢者に多く見られ、骨折のリスクを大幅に高めます。ここでは、骨粗鬆症がどのような影響を及ぼすか、そして高齢者ケアにおいてどのように対処すべきかを概説します。


骨粗鬆症とは


骨粗鬆症は、骨の形成と吸収のバランスが崩れ、骨の強度が低下する状態を指します。この疾患は特に女性の閉経後に多く見られますが、男性にも発症します。骨粗鬆症の進行により、日常的な動作や軽い転倒のように、普通であれば打撲で済むような怪我でも骨折しやすくなります。


骨吸収と骨形成


骨は一見すると硬くて変化しないように見えますが、実際には常に新しい骨が作られ、古い骨が取り除かれるという「リモデリング」と呼ばれるプロセスが行われています。このプロセスには二つの重要なステップがあります。

骨吸収

古くなった骨が特殊な細胞(破骨細胞)によって分解される過程です。この過程により、骨の中のカルシウムが血液中に放出されます。

骨形成

新しい骨が別の特殊な細胞(骨芽細胞)によって作られる過程です。この過程では、カルシウムが骨に取り込まれて強固な骨が形成されます。

骨粗鬆症では、このバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ることで、骨密度が低下し、骨が脆くなります。

骨粗鬆症の原因は多岐にわたります。加齢、遺伝的要因、ホルモンの変化(特にエストロゲンの減少)、栄養不良、運動不足、喫煙、アルコールの過剰摂取などが挙げられます。また、特定の疾患や薬剤の使用も骨粗鬆症のリスクを高めることがあります。


骨粗鬆症による影響


骨粗鬆症が進行すると、以下のような問題が発生します。

骨折のリスク増加

特に脊椎、股関節、手首などの骨が脆くなりやすく、これらの部位の骨折は生活の質を著しく低下させます。骨折は痛みと運動障害を伴い、長期間のリハビリテーションが必要となるため、高齢者にとって大きな負担となります。

近年整形外科ではフレイルとロコモーティブシンドロームという概念があります。

フレイルとロコモティブシンドロームの関係

フレイルとロコモティブシンドロームは密接に関連しています。フレイルは全身の機能低下を示す概念であり、ロコモティブシンドロームは運動器系の障害による移動機能の低下を指します。骨粗鬆症による骨折は、これらの状態を悪化させる主要な要因です。

フレイル(衰弱)とは運動機能が低下し、筋力や活動量が減少することで、全身の衰弱が進行することです。これには骨折も大きな要因となります。日常生活動作(ADL)が制限され、自立した生活が困難になることがあります。

ロコモティブシンドローム(運動器症候群)とは骨折や関節の問題により歩行能力が低下し、日常生活に支障をきたすことです。ロコモティブシンドロームは、運動器系の障害によって移動機能が低下する状態を指し、骨粗鬆症はその主要な要因の一つです。

フレイルの進行は、免疫力の低下や感染症のリスク増加、生活の質の低下をもたらします。ロコモティブシンドロームは、転倒や骨折のリスクを高め、さらなる運動機能の低下を引き起こします。このため、骨粗鬆症の予防と治療は、フレイルとロコモティブシンドロームの抑制にも寄与します。

骨粗鬆症および脆弱性骨折は生命予後の悪化を引き起こします。特に股関節骨折は、手術やリハビリを必要とし、生命予後に大きな影響を与えることがあります。股関節骨折後に一年後にご存命である確率(一年後生存率)は、90歳以上で70%、80歳代で80%、70歳代で90%と言われています。また長期の入院を必要とする場合、認知症の悪化や内科系疾患の増悪の可能性もあり、雪崩式に状態が悪くなることがあります。そのため、1つ目の骨折をいかに防ぐかがカギとなります。


骨粗鬆症の予防と高齢者ケア


骨粗鬆症の予防には、栄養バランスの取れた食事、適度な運動、禁煙、適度なアルコール摂取が重要です。特にカルシウムとビタミンDの摂取は、骨の健康を維持するために不可欠です。また、適度な運動は骨密度を高め、筋力を維持するのに役立ちます。

介護に関する職員や高齢の家族がいる方々は、骨粗鬆症の予防と対策についての知識を深めることが重要です。例えば、家の中の環境を整え、転倒のリスクを減らす工夫をすることや、定期的に骨密度を測定することが推奨されます。また、骨粗鬆症の早期発見と適切な治療を受けるために、整形外科専門医への相談も欠かせません。

骨粗鬆症の診断と治療:高齢者の健康を守るために

骨粗鬆症の診断と治療は、早期発見と適切な介入が鍵となります。次回は骨粗鬆症の診断方法と治療法について詳しく説明します。


富岡義仁
医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長
整形外科専門医
国際オリンピック委員会公認スポーツドクター
トップアスリートから子ども、高齢者まで幅広く診療を行う。薬の処方だけでなく運動療法を通した症状の改善を目指している。

 

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