医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長 富岡義仁
2026.03.09(月)
冬から春に移り変わり、外の空気がやわらかくなってくると、体を動かすにはとても良い季節になります。高齢の方にとって「運動」と聞くと身構えてしまうこともありますが、最も安全で、効果が高く、特別な道具もいらない方法が “散歩” です。
私は整形外科医として多くの高齢者を診てきましたが、調子の良い方に共通しているのは、「少しでも毎日歩いている」という点です。
散歩は単なる気分転換ではなく、医学的にも多くの効果が確認されています。
散歩がもたらす身体への効果
① 筋力の維持
歩くことで、太もも(大腿四頭筋)やお尻(殿筋群)、ふくらはぎなど、立つ・座る・階段を上るために必要な筋肉が刺激されます。
これらの筋力低下は転倒の大きな原因ですので、散歩はとても良い練習になります。
② 関節の動きを保つ
膝や股関節の軟骨は、適度な荷重と動きによって栄養を受け取ります。
まったく動かさないことは、かえって関節を硬くし、痛みを長引かせる原因になります。
③ 骨を強くする
歩くという “体重がかかる刺激” は、骨の新陳代謝を促し、骨粗鬆症予防にとても重要です。また骨の合成に必要なビタミンDは、日光に当たることで生成されます。
④ 心肺機能の維持
ゆったりしたペースでも、継続することで持久力が保たれます。
⑤ 認知機能と気分の改善
屋外で光を浴び、景色を見ながら歩くことは、うつ予防や認知機能低下予防にも有効とされています。

どのくらい歩けばよいのか?
理想は1日20〜30分程度。
ただし、これは目標であって “義務” ではありません。
10分を1日2回でも十分です。
大切なのは「継続できる量」です。
歩く速さは「隣の人と会話ができる程度」。
息が切れすぎる必要はありません。
痛みがある場合はどうする?
外来でよく質問を受ける内容として、「痛くても頑張ったほうがいいの?」というものがあります。
私は、「翌日まで痛みが残るようなら、その日はやりすぎです。」とお答えしています。
運動の強さを決める目安は「翌日の状態」です。
歩いた翌日、痛みがいつもより強くなっていたり、腫れが出ていたり、動きが悪くなっている場合は、負荷が強すぎました。
これは失敗ではなく、体からの「少し強かったよ」というサインです。
次回は距離を短くする、時間を減らす、坂道を避けるなど、少しだけ軽くしてみてください。
“体の反応を見ながら調整する” ことが、長く続けるコツです。
一方で、歩いている最中に少し違和感がある程度で、翌日には元に戻っているなら問題ありません。
「その日のうちに落ち着く軽い痛み」は許容範囲と考えてよいでしょう。
膝や腰が心配な方へ
変形性膝関節症や腰部脊柱管狭窄症の方でも、原則として歩行は推奨されます。
ただし工夫が必要です。
- 最初は平坦な道を選ぶ
- クッション性のある靴を履く(ウォーキング用のスニーカーやインソールを活用する)
- 痛みが出やすい時間帯を避ける(朝一番は硬くなりやすい)
「歩くと軟骨がすり減るのでは」と心配されることがありますが、適度な歩行で軟骨が急速に悪化するという根拠はありません。
むしろ、動かさないことのほうが機能低下を招きます。
よくある質問
Q:階段や段差はどうでしょうか?
A:特に “くだり” は、膝関節に体重以上の負荷がかかるため、痛みが出やすい動作です。
痛みがなければ行っても問題ありませんが、違和感や痛みが出る場合は無理をしないことが大切です。上りよりも下りのほうが負担は大きい、という点を覚えておきましょう。
Q:痛みがあって散歩が難しいのですが?
A:まずは「できること」から始めましょう。
屋外歩行が難しい場合、椅子に座って行う体操から始める方法もあります。
たとえば、NHKのラジオ体操には座って行うバージョンもあり、安全に全身を動かすことができます。
また、歩くときに痛みが出やすい方は、山登り用のストック(ポール)を使う方法もあります。
両手で支えることで、膝や股関節への負担を軽くすることができます。
「道具を使うのは弱いから」ではなく、「長く続けるための工夫」と考えてください。

介護される側だけでなく、介護する側にも
介護をしているご家族や介護士の方も、ぜひ一緒に歩いてください。
介護は体力勝負です。
腰痛や膝痛の予防にも、日々の軽い有酸素運動は有効です。
また、同じ時間を共有することで、会話が増え、気分転換にもなります。
外の風景は、室内では得られない刺激になります。
私も車通勤で、外来で座って診療をしていると、午前中で2000歩しか歩いていないということもあります。その場合は昼休みに散歩をするようにしています。気分転換にもなりますし、ジョギングだと汗をかいてしまうので、隙間時間にちょうど良いですね。

まとめ
散歩は “特別な運動” ではありません。生活の延長線上にある、最も自然なリハビリです。
長く歩くことよりも、速く歩くことよりも、「続けられること」が何より大切です。
翌日に痛みが強く残らない範囲で、少し物足りないくらいでやめる。
それを積み重ねることが、転倒予防、寝たきり予防、そして生活の質の向上につながります。
暖かい季節は、体を動かすチャンスです。
今日5分でも構いません。
まずは玄関の外に出てみることから始めてみてください。

富岡義仁
医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長
整形外科専門医
国際オリンピック委員会公認スポーツドクター
トップアスリートから子ども、高齢者まで幅広く診療を行う。薬の処方だけでなく運動療法を通した症状の改善を目指している。