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知っ得コラム

認知症の検査って何があるの?どんな内容? 認知症シリーズ

大阪公立大学 准教授 田中寛之
大阪公立大学 大学院生 天眞正博

2024.10.28(月)


認知症の検査 


認知症とは「一度獲得された認知機能が、後天的な脳の器質的障害によって全般的に低下し、社会生活や日常生活に支障をきたすようになった状態」を指します。

認知症の診断に際し、病気の治療歴や血液検査、身体の診察、脳の画像、認知機能の検査などが用いられます。そのなかでも、今回はとても重要な認知機能の検査について検査の種類や内容について紹介していきます。 


認知機能の検査  


認知症は脳の障害される部位によって様々な症状が出現します。そのため、一言に認知機能と言っても様々なものがありますが、ここではHDS-Rとよばれる長谷川式認知症スケールとMini-mental state examination(MMSE)について紹介します。

HDS-Rは、以前、改訂長谷川式簡易知能評価スケールと呼ばれていましたが、2004年に痴呆症から認知症に名称が変わったことにより、現在の名称にかわっています。 

これらはスクリーニング検査と言われており、認知機能に異常がないか把握する検査となっています。

比較的短時間で行える点が利点ではありますが、認知機能を大まかにしか把握できないため、必要な場合はのちにより専門的な検査を組み合わせることが望まれます。 


検査の内容


続いて、実際に用いられているHDS-Rの検査用紙と各項目が確認している能力とよくある間違いをまとめた表(下図)を用いて紹介していきます。

まず項目1では年齢を把握する能力を確認します。よくある間違いとしては、2歳以上誤って年齢を答えることがあります。なかには10歳以上年齢を誤って答えられる方もいらっしゃいます。

項目2では、日付についての確認です。我々でも時々、曜日や日を間違うこともありますが、認知症の方も間違うことが非常に多いです。間違えた時には「取り繕い」という反応をされることも多いです。この反応は、例えば「普段は新聞を読んで日付も確認してるんですが、今日はまだ見てなくて。」と言われたり、検査の際にヒントになる時計やカレンダーなどがないか周囲を見回したりするような反応もあります。これは決して異常な反応ではなく、誰しも検査をして間違えた時には「恥ずかしい、普段はわかっているのに」と思いますので、間違いを「代償」するための自然な行動です。日付や季節を間違うようになってしまうと、季節感が薄れていくようになり夏なのに厚着をしてでかけようとしたりするなど、生活にも問題がでてくることがあります。

続いて項目3では今いる場所を把握する能力を診ます。ここでは「病院」や「施設」と答えずに「駅」や「役所」など場所を誤って答えることがあります。これも、間違うようになると、迷子になることが増えてくることもあります。

次に項目4と項目7です。これらの項目はセットです。記憶を確認します。特に認知症では記憶の障害が出現することも多いですので、とても重要な項目です。3つの言葉のうち、1つだけを忘れる、3つとも忘れる、など対象者によっても色々と反応は変わりますが、重要なことは「ヒント」、つまり、手がかりを与えて正解できるかどうか、も重要です。

例えば、「桜」という言葉を思い出せない時は、「1つ目の言葉は植物でしたが、何だったでしょうか?」と、手がかりを与えてそこで思い出せるのであれば、それはまだ記憶が残っている証拠にもなります。家庭生活上でも、「ご飯を食べたことを忘れた」という場合では、「ほら、今日はお母さんの好きな天ぷらそばで、饅頭をデザートにも食べたよね?その時に苺大福にするかどうか迷ったじゃない。」とその時のエピソードを交えてヒントを伝えて、「ああ、そういえばそうだったね」と、少しでもその記憶の痕跡を思い出せるのであれば、記憶は保持されていると言えます。その優しい言葉かけ自体が、記憶に刺激を与えます。頭ごなしに「もう忘れたの!!!」などと伝えてしまうと、残っているはずの記憶を刺激できずに家庭環境も悪化してしまうかもしれません。

次に項目5では計算能力を確認します。よくある間違いとしては計算間違いだけではなく、1回目の計算の答えである「93」を忘れてしまい、2回目の計算を誤るなどが挙げられます。生活上では、おつりの計算ができなくなってきたりしてしまいます。

項目6では情報を保持する能力を検査します。ここでは聞いた数字を逆から答えてもらいますが、「286」とそのまま答えたり、「3259」と数字の順序を誤って答えてしまうことがあります。これができなくなると、電話番号を押し間違えたりしてしまいます。

項目8では、項目7と同じように記憶を確認しますが、ここでは実際の「物品」を使って5つのものが覚えることができるか確認します。例えば、1つのものは覚えることはできるが、2つ目からは忘れてしまう、のであれば、何かを指示する時やお願いをする時でも、一つ一つの動作を丁寧に伝えることを介護者の方は、意識した方が良い、と、実際の生活場面にもつながります。

最後に項目9では言葉の出やすさを確認します。この項目では野菜の名前が出てこないことや自身が答えた野菜を忘れてしまうため、同じ名前の野菜を繰り返して答えるなどの間違いがあります。この項目で間違うと、会話の中でも「あれ」「これ」などの抽象的な言い回しが増えたりすることがあります。

HDS-Rの満点は30点であり、点数が高いほど認知機能が高いことを示しています。また20点以下は認知症の疑いがあるとされています。

MMSEの内容についてはHDS-Rと類似する点が多くあります。HDS-Rと異なる点として、MMSEでは文章や図形を書く項目があり、文章の構成能力や空間の認知能力を確認する点が挙げられます。HDS-Rと同様に満点は30点であり、点数が高いほど高い認知機能を有していることを示しています。MMSEでは23点以下は認知症の疑いがあることを示しています。

ただ、これらの検査だけで「認知症」の診断がつくわけではありません。なので、安易にHDS-RやMMSEの点数が低いからとって「認知症」というわけではなく、勝手に診断してはいけません。

また検査の出来なかった部分だけではなく出来ている部分に着目することで、認知症の方の残された能力を発揮することにつながるかもしれません。

 


田中寛之(Tanaka Hiroyuki)
大阪公立大学 医学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 准教授
高齢者・認知症の人の認知機能や生活行為などの医療・介護現場での臨床と研究に従事。
2020年より、弊社と認知症グッドプラクティスシステムの共同研究開発を実施中。

 

天眞正博
大阪公立大学大学院 リハビリテーション学研究科 大学院生

 

 

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