認知症って?
大阪公立大学 准教授 田中寛之
2024.1.23(火)
もはや、国民病とも言われている「認知症」については、すでに多くの方々がご存知かと思います。2025年には700万人を超えると予想され、65歳以上の5人に1人が認知症になる見込みです。認知症という言葉をよく耳にするようになってきましたが、本当に正しい理解は浸透しているのでしょうか?私、個人的には、まだまだだと感じています。
認知症という状態
誤解している方も多いのですが、「認知症」というのは、疾患ではなく、「状態」を指します。
認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態、を指すのです。
認知症という状態を呈す疾患の種類としまして、神経変性疾患では、最も有名なアルツハイマー病、アルツハイマー型認知症があります。そのほかにも、レビー小体病などがあり、認知症を呈す疾患には数多くの種類があります。
特にアルツハイマー病では、認知機能の障害の特徴として、最も目立つものが、記憶障害です。数時間前のことなどを忘れてしまう出来事の記憶障害が比較的早い時期から認められます。しかし、進行の仕方は急激にすすむものではなく、ゆっくり数年かけて進んでいくことが多いです。
アルツハイマー型認知症
認知機能障害の特徴 | 数時間前のことなどを忘れてしまう、出来事の記憶障害が比較的早い時期から認められる |
進行の仕方 | ゆっくりとすすむ |
認知症の誤解
さて、実は認知症は、「認知機能の障害」のみを指すわけではありません。
認知症という状態は、もともとの認知機能(記憶など)が、以前より明らかに低下した状態、ということだけでなく、次のことも非常に重要です。
毎日の生活活動、例えば、薬の管理や冷蔵庫の中の食品の管理、部屋の整理整頓、洗濯、などにおいて、認知機能の低下のせいで、うまくできなくなっている、ということが含まれます。
このような認知機能の低下により、生活になんらかのしづらさを持っているという「状態」が認知症なのです。つまり、もし「あれ?最近物忘れが増えたかしら?認知症かな?」と、少し物忘れが増えた(認知機能が低下した)だけでは、認知症とは言えません。
加齢による物忘れと認知症の違い
加齢による物忘れと認知症による物忘れの違いもあります。出来事・体験について、加齢による物忘れでは、一部を忘れることはありますが出来事・体験自体は覚えています。
一方、認知症、特にアルツハイマー型認知症による物忘れでは、出来事そのもの、体験そのもの、例えば食事をしたことを忘れる、出かけたことを忘れる、という状態に陥ります。
その他、加齢による物忘れでは、学習能力は、新しいことを覚えることができますし、物忘れの自覚もあります、生活への支障はほとんどありませんし、症状の進行もほとんど認められません。
一方で、認知症では、新しいことを覚えにくくなり、物忘れの自覚も初めはありますが、症状の進行とともに少しずつなくなっていきますし、生活への支障も少しずつでてきます。図にわかりやすくまとめさせていただきました。
勝手な思い込みは偏見や誤解を生みますので、正確な診断は専門の医師に診てもらったり、医療や福祉の専門家に相談することもとても大切です。
加齢による物忘れと認知症による物忘れの違い
加齢による物忘れ |
認知症(アルツハイマー型認知症)による物忘れ |
|
出来事・体験 | 一部を忘れるが、出来事・体験自体は覚えている | 出来事・体験自体を忘れる |
学習能力 | 新しいことも覚える | 新しいことを覚えにくくなる |
物忘れの自覚 | ある | 少しずつなくなる |
生活への支障 | ない | 少しずつでてくる |
症状の進行 | ほとんどないか、極めてゆっくり | 進行する |
田中寛之(Tanaka Hiroyuki)
大阪公立大学 医学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 准教授
高齢者・認知症の人の認知機能や生活行為などの医療・介護現場での臨床と研究に従事。
2020年より、弊社と認知症グッドプラクティスシステムの共同研究開発を実施中。