医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長 富岡義仁
2026.07.13(月)
外来で高齢の患者さんから「最近、何もないところでつまずくようになった」とよく聞きます。
本人は「歳だから仕方ない」と話されることが多く、ご家族も「年齢のせいかな」と思って様子を見ていることがあります。
確かに年齢を重ねることで体は少しずつ変化します。しかし、それを「ただの老化」と片付けて放置してしまうのは、少し危険かもしれません。なぜなら、つまずきやすさは転倒の前触れだからです。
転倒は「痛かった」で終わるものばかりではありません。手首や太ももの付け根(大腿骨近位部)、背骨などの骨折につながることもあります。そして骨折をきっかけに活動量が減り、「歩く力」や「自分で生活する力」が落ちてしまうこともあります。
ただし、大切なのは転ぶ前に気づき、対策を取ることです。
歩くという動作は意外と複雑
私たちは普段、何気なく歩いていますが、歩くという動作には、実はたくさんの機能が関わっています。
・足の筋力(特に太ももや股関節の筋力)
・バランス能力
・視力
・関節の動き
・足裏の感覚
・脳から筋肉への指令
これらが協力して初めて、人はスムーズに歩けます。
例えば太ももの筋力が少し落ちるだけでも、足が十分上がらなくなります。
若い頃なら軽くまたげた数センチの段差も、足先が引っかかる原因になることがあります。
また、反応速度も少しずつ変化します。以前ならつまずいてもすぐ踏ん張れたものが、体勢を立て直せず転倒につながることもあります。
「つまずく回数が増えた」というより、「つまずいた時に立て直しにくくなった」と考える方が近いかもしれません。
動くことが億劫になり外出が減るとさらに筋力が落ち、また歩きづらくなり、さらに外出が減るという悪循環にはまってしまうこともあり、できるだけ早く悪循環から抜け出すことが非常に重要となります。

家族や介護士さんが気づきやすいサイン
本人は意外と変化に気づいていないことがあり、周囲の方が先に気づくことも少なくありません。
こんな変化はないでしょうか。
・歩幅が以前より小さくなった
・足をすって歩くようになった
・急に立ち止まることが難しくなった
・立ち上がる時に手を使うことが増えた
・手すりを探すようになった
・方向転換でふらつく
・外出回数が減った
一つだけで必ず問題があるわけではありません。
ただ、「以前より変わった」という点が大切です。
介護士さんやご家族は、毎日見ているからこそ気づけることがあります。
自宅でできる簡単セルフチェック
安全のため、必ず机や手すりの近くで行ってください。
【椅子立ち上がりチェック】
椅子から手を使わず立ち上がれるか試してみましょう。
立ち上がりにかかる時間、体の傾き、力の入れ具合も重要です。
難しい、何度も反動をつける、ぐらつく場合は下半身の筋力低下が関係しているかもしれません。
【片足立ちチェック】
机や手すりなど、すぐにつかまれる場所で片足立ちをしてみます。
左右差が大きかったり、すぐにふらついて両足をついてしまうような場合には、バランス能力が低下しています。
もちろん、この結果だけで病気が分かるわけではありません。
ただ、自分の変化を知るきっかけになります。
これらはリハビリテーションの進み具合を確認するテストとしても使われます。

「痛くないから大丈夫」とは限らない
「膝は痛くないし大丈夫」
「転んでいないから大丈夫」
こう考える方もいます。
しかし転倒予防は、転んでから始めるものではありません。
転倒は一つの原因ではなく、筋力、薬、視力、靴、生活環境など複数の要素が重なって起こります
早く気づくほど、改善できる可能性があります。
こんな時は受診を考えましょう
次のような場合は整形外科などへの相談を考えてください。
・急につまずきが増えた
・足のしびれがある
・片足だけ力が入りにくい
・歩き方が大きく変わった
・転倒したことがある
・転倒への不安で外出しなくなった
「まだ歩けるから大丈夫」ではなく、「今後も歩き続けるために相談する」という考え方もあります。一度大きな骨折につながると、その後の健康寿命にも大きく影響する可能性があります。
最後に
歳を重ねること自体は悪いことではありません。
ただ、「歳だから仕方ない」で終わらせてしまうと、改善できたかもしれない変化を見逃してしまうことがあります。
つまずきは、体からの小さなサインかもしれません。
だからといって、「もう歩けなくなる」という意味ではありません。早めに気づいて対策を始めれば、改善できることもたくさんあります。
転んでからではなく、転ぶ前に気づく。
その積み重ねが、「自分の足で歩き続けること」につながります。
できることは、まだたくさんあります。今後も、歩行や転倒について何回かに分けてお話ししていきたいと思います。

出典
・ Centers for Disease Control and Prevention (CDC): STEADI (Stopping Elderly Accidents, Deaths & Injuries) Program
高齢者転倒予防の評価・介入プログラム
・ Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Older Adult Fall Prevention
高齢者転倒の疫学・危険因子・予防方法
・ World Health Organization (WHO): Falls Fact Sheet
転倒による健康被害、危険因子、予防戦略
・ Japanese Orthopaedic Association (JOA): ロコモティブシンドローム
移動機能低下に関する啓発情報
・ Ministry of Health, Labour and Welfare (厚生労働省): 介護予防マニュアル 高齢者の身体機能維持・転倒予防

富岡義仁
医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長
整形外科専門医
国際オリンピック委員会公認スポーツドクター
トップアスリートから子ども、高齢者まで幅広く診療を行う。薬の処方だけでなく運動療法を通した症状の改善を目指している。