車椅子への移乗方法と福祉用具の活用 身体介助シリーズ
大阪公立大学 准教授 田中寛之
大阪公立大学 大学院生 後迫春香
2025.08.25(月)
移乗とは、車椅子からベッドへ、またはベッドから椅子へなどの、乗り移りの動作のことを指します。とりわけ、車椅子を使用する利用者がベッドやトイレへ移乗する動作は、安全に移動し、快適に日常生活を送るための重要なプロセスです。
適切な方法を知ることで、利用者の自立を促し、ときに介助者の負担を減らすことができます。今回は、移乗の基本手順と移乗に役立つ福祉用具について紹介します。
車椅子への移乗の基本
移乗を円滑に行うために介助の基本的なポイントを押さえましょう。
環境を整える:
車椅子の位置を適切に調整し、利用者が移りやすい角度を確保します。周囲に障害物がないか確認することも重要です。
安全を意識する:
ブレーキを確実にかけ、車椅子が動かないように固定します。
利用者とコミュニケーションを取る:
移乗のタイミングや動きについて声をかけ、安心して移動できるようにします。
負担を軽減する動作:
介助者の身体への負担を減らすために、利用者の重心を前方または横に移動させることで、少ない力で持ち上げたり移動させたりできるような動作を意識して行います。
例えば、①利用者に上半身を少し前に傾けてもらい、立ち上がる時の動作を意識していただきます。②介助者は膝を曲げて腰を伸ばすのではなく、脚を少し広げて介助者自身の重心移動で移乗できるようにします。

主な移乗方法
移乗動作にはいくつか方法があり、利用者の状態に応じた方法を選ぶことが大切です。
表1.移乗方法とそれぞれの特徴
移乗方法 | 動作方法・特徴 | 適応 |
スタンディング移乗 | 手すりなどを使いながら立ち上がり、身体の向きを変えて車椅子へ座る。 1 手すりなどを使い立ち上がる 2 身体の向きを変える 3 車椅子に座る |
・ある程度立てる方 |
スライディングボード移乗 | 板を使用し、座った状態で移乗する。腕の力を使うため、比較的負担が少ない。 1 自分のお尻の下と車椅子上にスライディングボードを渡しセットする 2 行先方向のお尻に体重をかけ、身体を滑らせる 3 身体をまっすぐの向きに整える |
・スタンディング移乗では介助量が多い方 ・手すりを持てば座った姿勢を維持できる方 ・お尻に褥瘡がない方 |
リフト移乗 | 介助者の負担を軽減するための福祉機器を活用する方法。安全かつスムーズに移乗できる。 | ・自力で座った姿勢を保つことが難しい方 ・体格が大きく、介助者の負担が大きい方 |
福祉用具の活用
近年、移乗を補助する福祉用具が充実しています。適切なアイテムを活用することで、介助がより安全で楽になります。
表1で紹介した福祉用具を含め、移乗の際に使用される福祉用具には以下のようなものがあります。
表2.移乗の際に使用される福祉用具
福祉用具 | イメージ |
介助バー(L字柵) |
・ベッド柵と一体型の、立ち上がり・移乗用の手すり ![]() |
モジュラー型車椅子 |
・アームレストを跳ね上げて利用者のお尻が当たらないようにしたり、フットレストを取り外して利用者の足が当たらないようにすることができる ![]() |
スライディングボード |
・座ったままお尻を滑らせ移乗することができる ![]() |
電動リフト |
・身体を持ち上げる機能を備えた機器 ![]() |
それぞれの福祉用具の中には、商品のタイプによって向き不向きがあります。
例えば介助バーはスタンディング移乗やスライディング移乗には有用ですが、寝た姿勢から直接リフトで車椅子へ移乗する場合には使用されることはほとんどありません。
スライディングボードは、ある程度自力で立ち上がることが可能な方には、ボードを使ってしまうことで足腰の筋力を使わなくなり、衰えてしまう可能性もあるため、用いない方がよいとされています。
自力でお尻を持ち上げることが困難な場合には、本人および介助者の双方にとって安楽な補助道具です。
また、一般的な移乗方法と異なることや、使い方を誤ると滑り落ちるリスクもあることから、動作方法を正しく理解し、実行できる認知機能のある方が使用することが望ましいといえます。
このように、実際に利用者の方に使用する前にはどの福祉用具が適しているか吟味し、選択する必要があります。
まとめ
車椅子への移乗は、適切な方法と福祉用具を活用することで、より安全かつスムーズに行うことができます。利用者の状態に合わせた介助を心がけ、負担を減らしながら快適な生活を支援することが重要です。
近年では、YouTubeなどでも様々な移乗動作の方法を掲載している動画もありますので、参考にしていただければと思います。
ルミナス学院(社会福祉法人あけあい会)
【動画で学べる!】車いすからベッドへの移乗(全介助)
○参考・引用文献
・公式通販パラマウントベッドストア スイングアーム介助バー
https://www.paramount.shop/c/product/KS-099
・松永製作所HP ネクストコア・ミニモ
https://www.matsunaga-w.co.jp/products/next-core/%e3%83%8d%e3%82%af%e3%82%b9%e3%83%88%e3%82%b3%e3%82%a2%e3%83%bb%e3%83%9f%e3%83%8b%e3%83%a2-2/
・パラマウントベッドHP イージーグライド
https://www.paramount.co.jp/series/3/3000082
・パラマウントベッドHP 床走行式電動介護リフト
https://www.paramount.co.jp/lineup/3/3000206/668

田中寛之(Tanaka Hiroyuki)
大阪公立大学 医学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 准教授
高齢者・認知症の人の認知機能や生活行為などの医療・介護現場での臨床と研究に従事。
2020年より、弊社と認知症グッドプラクティスシステムの共同研究開発を実施中。

後迫春香
大阪公立大学大学院 リハビリテーション学研究科 大学院生