知っ得コラム

大腿骨の骨折とその予防や対策について 転倒シリーズ

大阪公立大学 准教授 田中寛之
大阪公立大学 大学院生 天眞正博

2025.12.22(月)


はじめに


今回は、高齢者介護の現場で直面することが多く、介護現場での重要なテーマ、「大腿骨骨折」について深く掘り下げていきたいと思います。


大腿骨骨折について


大腿骨とは、太ももの骨であり、人間の体の中で最も長くて太い、とても重要な骨です。股関節から膝関節までをつなぎ、体重を支えて歩行や起立といった基本的な動作の要となる骨です。

大腿骨を骨折することを「大腿骨骨折」と呼び、その中でも特に多いのが股関節に近い大腿骨「近位部(きんいぶ)」骨折です。大腿骨近位部骨折の多くは、骨粗鬆症を有する高齢者に発生します。高齢者の人口増加にともない、国内の発生数は2020年に24万人、2040年には32万人に達すると推計されています。

高齢者の大腿骨近位部骨折は、家族や介護者の介護負担の増加だけでなく、実は、生命予後の悪化にまでつながることが知られ、1年以内の死亡率は約10~30%とも言われています。

高齢者の大腿骨近位部骨折の多くは、外傷で発生します。約80%は立った高さから、もしくはベッドからの転倒・転落ですが、認知症などにより原因がわからない場合や、オムツ交換や体位変換などのケア中の骨折も時折みられます。

大腿骨の骨折は身体的な問題に留まらず、その方の生活全体、ひいてはその方の尊厳に深く関わる問題となります。そのため、「予防」することが重要となります。


大腿骨骨折の主な原因:転倒と骨粗鬆症


大腿骨骨折の約9割は転倒が原因です。そして、転倒によって骨折に至る背景には、「骨粗鬆症」という病気が大きく関わっています。

転倒:
高齢者は身体機能の低下(筋力低下、バランス能力の低下、視力低下など)、服用薬の副作用(ふらつき)、生活環境(段差、滑りやすい床、暗い照明)など、転倒リスクを高める要因を複数抱えています。

骨粗鬆症: 
骨密度が低下し、骨がスカスカになって脆くなる病気です。特に閉経後の女性に多く見られます。骨が脆いため、少しの衝撃でも骨折しやすくなります。

つまり、大腿骨骨折の予防には、「転倒予防」と「骨粗鬆症対策」の両面からアプローチすることが不可欠です。


1. 転倒予防のための環境整備と声かけ


段差の解消: 
敷居やカーペットの段差は小さなつまずきの原因になります。可能であれば、スロープ設置やバリアフリー化を提案しましょう。

手すりの設置: 
廊下、浴室、トイレ、玄関など、移動時に不安定になりやすい場所に手すりがあれば、転倒リスクは大幅に減少します。

滑り止めの活用: 
浴室のマット、スリッパ、靴下など、滑りやすいものは避け、滑り止め加工されたものを選ぶようにしましょう。

照明の確保: 
夜間のトイレ移動など、足元が暗いと転倒しやすくなります。足元を照らすフットライトや、センサー付きライトの設置を検討しましょう。

整理整頓: 
床に物が散乱している、コードが邪魔になっているなど、些細なことでも転倒の原因になります。常に整理整頓を心がけましょう。


2. 運動習慣の支援と筋力維持


適切な運動の促し: 
日常生活の中で、無理のない範囲で体を動かす機会を積極的に作りましょう。例えば、足上げ、腕回し、背伸びなどを椅子に座っての体操する、天候が良ければ外に出て、日光を浴びながら散歩するのも良いでしょう。そのほかに、集団での体操やゲームは、身体機能の維持に良い影響をもたらします。さらに、下肢筋力の維持強化のために、立ち上がり動作や歩行運動を、専門職(理学療法士や作業療法士など)から助言を得て取り入れることも良いです。痛みが出ない程度の簡単なスクワットや、椅子からの立ち上がり訓練などでも有効です。


3. 栄養管理と骨粗鬆症対策


栄養バランスの取れた食事: 
骨の健康には、カルシウムだけでなく、ビタミンD(カルシウムの吸収を助ける)、ビタミンK(カルシウムを骨に定着させる)も重要です。カルシウムは牛乳、小魚、木綿豆腐などに多く含まれ、ビタミンDは 魚類(さんま、マグロなど)、きのこ類、卵黄などに多く含まれるほか、日光浴をすることもビタミンD生成に効果的です。ビタミンKは納豆、ほうれん草、ブロッコリーなどに多く含まれています。

服薬管理の徹底: 
骨粗鬆症と診断された利用者の方は、骨密度を維持・向上させるための薬を服用していることがあります。服薬状況の確認や、内服忘れがないよう声かけを行うことも重要な役割です。


おわりに


大腿骨骨折は、利用者の方の生活の質を大きく損ない、介護者の負担も増大させる深刻な問題です。しかし、私たちが日々のケアの中で意識し、実践できる予防策は数多く存在します。皆様の専門的な視点と徹底されたケアが、利用者の安全と健康を守ります。今日のコラムが、皆様の現場での実践に少しでも役立つことを心から願っております。

 


田中寛之(Tanaka Hiroyuki)
大阪公立大学 医学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 准教授
高齢者・認知症の人の認知機能や生活行為などの医療・介護現場での臨床と研究に従事。
2020年より、弊社と認知症グッドプラクティスシステムの共同研究開発を実施中。

 

天眞正博
大阪公立大学大学院 リハビリテーション学研究科 大学院生

 

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