高齢者と運転を取り巻く現状について
大阪公立大学 准教授 田中寛之
大阪公立大学 大学院生 鍵野将平
2026.1.26(月)
日本は世界でも高齢化が進んでおり、社会全体で「高齢者と運転」の現状を理解することが重要になっています。高齢になっても移動手段として運転を続ける人が多い一方で、運転に伴う事故などの危険や課題も指摘されています。
本稿では、最新の統計資料や現行の制度に基づいて、高齢者と運転を取り巻く現状について整理し、読んでいただいた皆様に正しく理解していただく機会にしたいと思います。
①高齢者の運転免許保有者は多数存在する
警察庁の統計によると、運転免許保有者のうち75歳以上の高齢者は約790万人 (全体の9.7%)と推計されており、決して少数ではありません(表1)。
高齢の運転者は、社会の中で一定の割合を占めており、運転という行為は、日常生活を営むうえで重要な移動手段の一つとなっています。

②事故発生の特徴にも年齢差がある
交通事故統計を見ると、免許人口10万人当たりの死亡事故件数は全体として減少傾向にありますが、高齢運転者が占める割合は依然として高い状態が続いています(図1)。

事故の内容に着目すると、高齢運転者では車両の単独事故の構成比が高いことが示されています(図2)。

さらに、ハンドル操作の誤りやブレーキとアクセルの踏み違いなど、運転操作そのものに起因する事故の割合が高いことも報告されています(図3)。

こうした背景として、加齢に伴う身体機能や認知機能の変化が影響している可能性が指摘されています。身体機能や認知機能については、これまでの本ブログでも取り上げていますので、ぜひあわせてお読みいただければ幸いです。
③75歳以上は免許更新時の検査がある
制度面では、警察庁により、75歳以上の高齢者には免許更新時に認知機能検査等の受検が義務付けられています。さらに、一定の違反歴がある場合には 運転技能検査が追加される仕組みになっています。これは高齢運転者による事故を予防する目的で導入された制度です。

(参照:高齢者支援サイトhttps://www.zensiren.or.jp/kourei/flow/flow.html#flow01)
④サポカー限定免許という選択肢
高齢運転者の安全対策の一つとして、「サポートカー限定免許」があります。これは、衝突被害軽減ブレーキなどの先進安全技術を搭載した自動車(サポートカー、通称「サポカー」)に限って運転を認める免許制度です。
サポカー限定免許は、運転を直ちにやめるのではなく、安全性の高い車両に限定して運転を継続する選択肢として位置づけられています。特に、運転に不安を感じ始めた高齢者や、家族から心配の声が上がっている場合に、段階的な運転支援の一つとして活用が検討されます。
詳細は以下の警察庁ホームページをご覧ください。
https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/support_car.html
⑤自主返納者は一定数存在する
自主的に運転免許を返納する高齢者も一定数存在しますが、返納者数の推移は年によって変動しており、一方向に増え続けているわけではありません。
返納者数は2019年まで増加傾向を示し、その年に大きく増加しましたが、その後2023年にかけては減少が続いていました。2024年には、65歳以上の返納率が前年を上回った一方で、75歳上の返納率は引き続き低下しています(図5)。

(参照:ニッセイ基礎研究所 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=83881?pno=2&site=nli#anka1)
また、地域差も大きく、特に地方部では全国傾向とは異なり、返納率の低下が続いている地域もあります。自主返納は本人の判断だけでなく、独居かどうかといった生活環境や地域の交通事情など、周囲の要因にも左右されます。そのため、返納後の生活を支える支援や、代替となる移動手段の整備が重要です。
⑥安全運転相談ダイヤル「#8080」の活用
運転に関する不安や判断に迷う場合には、警察が設置する「安全運転相談窓口」を利用することができます。この窓口では、本人や家族からの相談を受け付け、免許制度や講習、運転に関する一般的な助言が行われています。
運転継続や免許返納の判断は、本人や家族だけで抱え込むと負担が大きくなりがちです。公的な相談窓口を活用し、第三者の視点を取り入れることは、冷静な判断につながる有効な手段といえるでしょう。

⑦運転継続の背景としての社会的要因
高齢者が運転を継続する理由の一つとして、公共交通が十分に整備されていない地域における移動の必要性が挙げられます。特に地方では、自動車が生活に不可欠な移動手段となっているケースが多く、免許返納が生活に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。
こうした点を踏まえ、個々の生活状況に応じた支援を検討していく必要があります。
⑧歩行中の事故にも注意が必要
高齢運転者による事故が注目されがちですが、統計データ上で見ると、高齢者では歩行中の死亡事故が非常に多いことが分かります(図6)。

特に年齢が高くなるにつれて横断違反が増加し、横断歩道以外の横断中の死亡事故が多いことが報告されています。横断方法を含む交通ルールの遵守に加え、加齢に伴う身体機能の変化を自覚した行動や、夜間における反射剤用品の着用などが重要です。
これらを促すため、交通安全教育や広報啓発を継続的に実施していく必要があると考えられています。
まとめ — 介護の現場で大切にしたい視点
- 高齢者の運転は一定数存在し、社会の中で重要な移動手段になっています。
- 事故統計からは、加齢に伴う事故リスクの特徴がデータとして示されています。
- 制度上、75歳以上の免許更新は追加の検査が設けられています。
- サポカー限定免許という選択により、段階的な運転支援が可能です。
- 自主返納者は一定数いますが、その背景は多様であり、生活全体を見据えた支援が必要です。
- 運転に不安を感じた場合は、安全運転相談ダイヤル「#8080」の活用が有効です。
- 高齢者では、運転中だけでなく歩行中の事故にも注意が必要です。