回想法って? レクシリーズ
大阪公立大学 准教授 田中寛之
大阪公立大学 大学院生 天眞正博
2024.11.25(月)
回想法とは?認知症ケアにおけるその効果とは
「回想法」という言葉を聞いたことがありますか?
回想法は、認知症のケアの中でよく用いられる心理療法の一つで、過去の思い出や経験を振り返ることで、心身の安定や生活の質の向上を図る方法です。認知症の方々にとって、過去の出来事や思い出を語ることは、安心感や自尊心を取り戻す手助けとなり、行動・心理症状(BPSD)の緩和にもつながります。
回想法の効果
1. 自尊心の向上
過去の成功体験や嬉しかった出来事を語ることで、認知症の方々の自尊心が高まります。「自分にはこんなにたくさんの経験があるんだ」という実感を持つことで、現在の自分への自信にもつながります。
2. 不安やストレスの緩和
現在の認知症の症状によって、混乱や不安を感じることが多い方々にとって、過去の楽しかった思い出を語ることは、気持ちを落ち着かせるための一つの手段です。自分の記憶の中で鮮明な時期に戻り、心地よい気持ちを感じることで、ストレスの緩和に役立ちます。
3. コミュニケーションの活性化
回想法は、利用者と介護士とのコミュニケーションを活性化させる効果もあります。過去の話題を通して利用者のことをより深く理解できるため、日々のケアの質も向上します。また、会話がスムーズになることで、利用者が感じる孤独感を軽減することにもつながります。
回想法の具体的な進め方
1. リラックスできる環境作り
回想法を行う前に、落ち着いて話ができる環境を整えます。音楽をかけたり、お茶を用意したりして、利用者がリラックスして話しやすくなる雰囲気を作りましょう。また、利用者の目線に合わせて座り、ゆったりとした気持ちで話を進めるよう心がけます。
2. 道具を活用して記憶を刺激する
昔の写真、懐かしい音楽、特有の香り、手触りのある品物など、五感に働きかける道具を使用すると、記憶を引き出しやすくなります。例えば、昭和の写真集や当時流行した歌を流すことで、利用者の思い出が自然と蘇ることがあります。時代を象徴する道具を活用することで、利用者が語りやすいきっかけを作ります。
下のシートのように画像をまとめてみるのも良いでしょう。
3. シンプルな質問から始める
会話を始める際は、シンプルで答えやすい質問から始めます。「子供の頃はどんな遊びをしていましたか?」や「若い頃、好きだった食べ物は何ですか?」など、利用者が身近に感じられる質問を投げかけると良いでしょう。利用者が話しやすくなるにつれて、少しずつ具体的な内容に移行します。
4. 利用者の話を広げる
利用者が話し始めたら、「そのときの気持ちはどうでしたか?」や「一緒にいた人はどんな方でしたか?」など、思い出を深める質問をします。語りの中で出てきた事柄を拾ってさらに広げることで、利用者の記憶を引き出す助けになります。
5. 最後に感謝の気持ちを伝える
回想法のセッションが終わったら、「お話を聞かせていただき、ありがとうございました。」と感謝の気持ちを伝えることも大切です。利用者にとって、自分の経験を語る時間が誰かに価値を持って受け入れられたと感じることは、自尊心を高めるきっかけとなります。
まとめ
回想法は、認知症ケアの現場で効果的に活用されているアプローチの一つです。利用者が過去の思い出を語ることは、心の安定や自己肯定感を高める大切な時間となります。適切な質問や態度でサポートすることで、利用者に安心感を与え、日々のケアに良い影響をもたらすでしょう。
田中寛之(Tanaka Hiroyuki)
大阪公立大学 医学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 准教授
高齢者・認知症の人の認知機能や生活行為などの医療・介護現場での臨床と研究に従事。
2020年より、弊社と認知症グッドプラクティスシステムの共同研究開発を実施中。
天眞正博
大阪公立大学大学院 リハビリテーション学研究科 大学院生