知っ得コラム

睡眠と活動、生活リズムについて



大阪公立大学 准教授 田中寛之
大阪公立大学 大学院生 天眞正博

2026.03.23(月)


はじめに


今回は、認知症ケアにおいて重要なテーマの一つである「睡眠と活動、生活リズム」について解説します。

「夜中に何度も起き出される」「昼間はずっと居眠りしている」――こうした光景は現場では日常的なことかもしれません。これらを単なる「認知症の症状」として片付けるのではなく、一歩踏み込んで「生活リズムをデザインするケア」という視点を持つことで、利用者様の表情、そして皆様の負担が変わる可能性があります。


​なぜ「リズム」が崩れるのか:脳の時計の乱れ


私たちの体には、サーカディアンリズム(概日リズム)と呼ばれる「体内時計」が備わっています。これによって、意識しなくても朝は目覚め、夜には眠気が訪れます。

しかし、認知症が進むと、この体内時計を司る脳の領域に変性が生じ、リズムが乱れ始めます。さらに、加齢に伴い、睡眠を誘うホルモン「メラトニン」の分泌も減少します。

認知症の方は、自分が「今、一日のどこにいるのか」という時間的見当識を失いやすいため、外が暗いから寝る、明るいから起きるといった自然な判断が難しくなります。これが、夜間の徘徊や昼夜逆転、そして夕暮れ時に不安が強まる「夕暮れ症候群」の背景にあるとも言われています。


「朝」の過ごし方について


「夜に寝てほしいから、夜の対応を工夫する」というのは自然な発想ですが、実は睡眠ケアの勝負は「朝」に決まっています。

光のシャワーを浴びる

朝起きたら、まずカーテンを開け、日光を浴びていただきましょう。
強い光が目に入ることで体内時計がリセットされ、その約14〜16時間後にメラトニンの分泌が始まります。
「朝の光が、夜の眠りを作る」ことを意識してみましょう。


「着替える」というスイッチ​

パジャマのまま一日を過ごすことは、脳に「まだ寝ていていいですよ」という信号を送り続けることになります。朝、服に着替える、顔を洗う、お化粧をするといったルーティンは、心身を「活動モード」に切り替える強力なスイッチになります。


「昼」の過ごし方について


昼間の過ごし方こそが、リハビリテーションの核心です。
ここで大切なのは、単に「起こしておく」のではなく、「意味のある活動」を提供することです。

役割の提供

認知症の方にとって感じるストレスの一つは、「自分が誰の役にも立っていない」と感じることです。洗濯物を畳む、食器を拭く、植物に水をやる――こうした日常の家事動作(ADL)は、リハビリにもなります。

「お手伝いいただけますか?」という皆様の一言が、利用者様の自己肯定感を高め、適度な心地よい疲労感を生みます。

「昼寝」のコントロール

昼間のうたた寝を完全に禁止する必要はありませんが、15時以降の長すぎる昼寝(30分以上)は夜間の不眠に直結します。
午後のお茶の時間やレクリエーションを、リズムを整える活動として活用しましょう。


「夜」の過ごし方について


夜、自然に入眠していただくためには、環境の整備が不可欠です。

光と温度の調整

夕方からは照明を少しずつ落とし、暖色系の光に切り替えることで、脳を「休息モード」へと誘います。
また、高齢者は体温調節機能が低下しているため、寝室の温度設定(冬場は18〜22度、夏場は25〜28度程度)には細心の注意を払いましょう。


おわりに


最後に、最も大切なことをお伝えします。
認知症ケアにおけるリズム調整は、決して利用者様を私たちのスケジュールに「当てはめる」ことではありません。
皆様の日々の記録を見返してみてください。そこには、その方なりの「リズムの波」が隠れているはずです。

「この方は雨の日は不安になりやすい」「この時間はいつもソワソワされる」といった気づきこそが、個別ケアの出発点です。

生活リズムを整えることは、行動を制限することではなく、その方らしい一日を支えること。
その視点が、ケアの質を一段と高めてくれるはずです。



田中寛之(Tanaka Hiroyuki)
大阪公立大学 医学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 准教授
高齢者・認知症の人の認知機能や生活行為などの医療・介護現場での臨床と研究に従事。
2020年より、弊社と認知症グッドプラクティスシステムの共同研究開発を実施中。

天眞正博
大阪公立大学大学院 リハビリテーション学研究科 大学院生

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