サプリの部屋

知っ得コラム

要介護高齢者にとっての福祉用具の使い方(食器)

大阪公立大学 准教授 田中寛之
大阪公立大学 大学院生 天眞正博

2024.8.26(月)


高齢者における食事の重要性


食事は生きていくためには欠かせない行為です。また高齢者にとって「食べること」は楽しみや生きがいでもあり、QOL(生活の質)においても重要です。

しかしながら、高齢になると加齢や様々な病気の影響によって、食事内容の変化や、食事を摂る量が低下することがあります。特に食事を摂る量が低下すると、低栄養の状態となり、健康を損なう原因にもつながるため、高齢者自身で食事を摂ってもらえるように支援していくことは重要です。

食事を摂る量が低下する原因には①味覚の低下②噛む力の低下③飲み込む力の低下④精神的なストレス⑤病気による身体の不調などが考えられ、原因に応じた支援が必要となります。そのなかでも⑤病気による身体の不調については「福祉用具」を利用することで高齢者の自立につながる場合があります。

食事を楽しむ高齢者

福祉用具とは


福祉用具は、身体の機能が低下し日常生活を営むのに支障がある人に対して、生活の自立を助けるための「用具」のことです。福祉用具を利用することで高齢の方であっても最大限に能力を発揮し、自立した生活を送ることができることがあります。今回は食器を中心に福祉用具を利用するにあたっての注意点や実際に使用されている福祉用具を紹介していきます。


福祉用具を利用するにあたっての注意点


福祉用具を利用する際には高齢者の能力を考慮したうえで、自立を促す動作を明確にし、必要な福祉用具を選択する必要があります。例えば、痛みによって腕が挙がらず口元にスプーンが届かない場合は、スプーンが口元へ運びやすくなる福祉用具を選択する必要があります。

次に福祉用具の入手方法については①購入②レンタル③自治体の支援(貸し出しや補助金)④中古品の利用などがあります。

ただし、食器など口にするものは衛生面の問題によりレンタル対象外となることが一般的です。市販品を購入し、改良や加工をすることで高齢者の特性に合わせた福祉用具も作成できます。作業療法士などの専門家が近くにいる場合は相談して依頼することも良いでしょう。

食事介助をするスタッフと高齢者男性

福祉用具を利用する際には下の表1のような点に注意する必要があります。特に介護施設などでは、食器洗い洗浄機に対応できるか、購入の際に予算がかかりすぎないか、なども考慮しないといけない点かもしれません。

 

表1  福祉用具導入の際の注意点

注意点 備考欄
病気や年齢による特徴 認知機能の程度(例:使用方法を理解できるか)
デザイン性 形や色などの見た目
予算 高価ではないか、材料費がかかり過ぎていないか
管理方法 耐熱温度(食器乾燥機対応か)、材料特性(繰り返し洗浄可能か)
破損した場合の対応 代替品の準備ため購入先の情報を把握

 


食事で使用される福祉用具の紹介


食事で使用される福祉用具は様々なものがあり、代表的なものをここで紹介します。まずはイラストのように食材をすくい易いお皿や茶碗です。このお皿は縁がくぼんでいるため、くぼみにスプーンを沿わせることで食材がすくい易くなります。手先が不自由で食べこぼしが多い方に利用すると食べやすくなります。

次に、握り易いスプーンやフォークです。この食器は柄が太いため、指をかけやすく握力が低い方でも握り易くなっており、スプーンやフォークをよく落としてしまう方に利用すると上手く食事が摂れるようになります。この福祉用具は専用のスポンジをスプーンの柄に差し込むことが多いですが、ホームセンターで販売されているホースを用いて代用することもできます。

福祉用具の選択は基本的に利用者の「できないこと」「不便なこと」「困難なこと」に気づくことから始まります。そのためには、日頃から高齢者の訴えを聞くことやしづらい動作を観察することが大切です。


田中寛之(Tanaka Hiroyuki)
大阪公立大学 医学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 准教授
高齢者・認知症の人の認知機能や生活行為などの医療・介護現場での臨床と研究に従事。
2020年より、弊社と認知症グッドプラクティスシステムの共同研究開発を実施中。

 

天眞正博
大阪公立大学大学院 リハビリテーション学研究科 大学院生

 

 

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