知っ得コラム

五十肩って何?〜つらい肩の痛みとの付き合い方〜 前編

医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長 富岡義仁

2025.08.12(火)


はじめに


肩のお悩みは膝、腰などと同様に非常に多くあります。今回と次回の2回に分けて肩のお悩みについてご説明していきます。まずは五十肩についてです。


◆ 五十肩ってなに?


「肩が上がらない」「洋服を着替えるときに痛い」「夜になるとズキズキする」――

そんな症状があると、よく「五十肩かな?」と言われることがあります。

五十肩とは、正式には肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)と呼ばれる疾患で、肩の関節周囲に炎症が起こり、痛みとともに動かしにくくなるのが特徴です。五十肩は、特に50代を中心に、40〜60代に多く発症すると言われており、人口の約2〜5%が経験するとも言われます。男女差は大きくありませんが、利き腕側に発症しやすく、片側性が多いものの、数年後に反対側にも起こることもあります。

原因は明確には特定されていませんが、加齢に伴って肩関節周囲の筋肉や靭帯、関節包と呼ばれる組織が硬くなり、炎症や癒着を起こすことで発症します。糖尿病や甲状腺疾患、心疾患の既往がある方では発症率が高い傾向があります。

ただの「年のせい」ではありません。

きちんと治療をすれば回復は可能であり、放置してしまうことで慢性化し、日常生活に大きな支障が出ることもあるのです。


◆ どんな経過をたどるの?


五十肩は大きく分けて3つの時期があります。

1. 急性期(炎症期)
痛みが強く、特に夜間の痛みが特徴的。安静にしていても痛むことがあります。

2. 拘縮期(こうしゅくき)
炎症は落ち着いてくるものの、肩関節の可動域が狭くなり、腕を上げたり回したりするのが困難になります。

3. 回復期
徐々に痛みが和らぎ、動きが戻ってくる時期。ただし、何もしなくても自然に治るとは限らず、時間がかかることも。


◆ これって五十肩?セルフチェックをしてみよう。


肩の痛みを感じたらセルフチェックをしてみましょう。

1.バンザイができますか?

腕を前から耳の横まで上げられますか?
それができたら、次は横から耳の横まで上げていってみましょう。

2.  肩の外旋ができますか?

肘を脇腹につけたまま肩を外に回します。なんでやねん!のポーズです。

3.  上記を自分の力で行うのと、他者にやってもらった場合で違いがありますか?

自分が行うのと他者が行うので違いがあれば、腱板損傷など筋肉の障害の可能性があります。違いがないようであれば五十肩かもしれません。それぞれ治療方針やリハビリテーションの内容が変わることもありますし、状況によっては早期の手術をお勧めする可能性もあります。ただ、どちらにしてもしっかりと診断をつけることが治療への第一歩になるので、一人で悩まずに専門の医師に相談しましょう。


◆ 治療の柱は「リハビリ」と「保存療法」


五十肩は、多くの場合手術を必要としない保存加療(薬、注射、リハビリなど)で改善が見込めます。

● 湿布や痛み止めだけでは足りません

急性期においては、痛みを和らげるために湿布や内服薬(痛み止め)、関節内注射が有効です。

しかし、それらは「炎症を抑えるための手段」に過ぎません。関節の動きが制限されていく「拘縮期」に入った後は、痛みを抑えても肩の動き自体が回復しないケースが多いのです。リハビリを行わずに薬のみで治そうとすると2年くらいかかることもあると言われています。

● 本当に大切なのは「リハビリ」

痛みがあると無意識に肩を動かさなくなり、どんどん硬くなってしまいます。

リハビリでは、理学療法士による可動域訓練や、自宅でのストレッチを組み合わせながら、少しずつ肩の動きを取り戻していきます

初めはつらくても、正しい方法で継続することで着実に効果が出ます。1、2ヶ月程度で完治することは稀で、諦めずに根気よく行っていくことが非常に重要です。


◆ それでも治らない場合は?


リハビリを続けても改善が乏しい場合や、強い拘縮が長期にわたって続く場合には、首にブロック注射を行った後に関節包を剥がすサイレントマニピュレーションという手技や、関節鏡手術による癒着の剥離(関節包切離術)を行うこともあります。

このようなケースでも、術後のリハビリがとても重要で、「手術=ゴール」ではないことを忘れてはいけません。


◆ 早期発見・早期介入が大切


「年だから仕方ない」「そのうち治るだろう」と放っておくと、症状が長引き、改善に非常に時間がかかります。

五十肩は、早い段階で適切な治療を開始することで、よりスムーズな回復が期待できる病気です。


◆ 最後に


五十肩は、誰にでも起こりうる身近な病気です。

しかし、「痛みを和らげる」だけでなく、「動きを取り戻す」ことが治療の本質です。

湿布や痛み止めは補助的な手段にすぎません。主体的にリハビリに取り組むことこそが、日常生活への早期復帰のカギとなります。

「歳のせいだから」とあきらめずに、医師やリハビリスタッフと協力して、肩の自由を取り戻しましょう。


富岡義仁
医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長
整形外科専門医
国際オリンピック委員会公認スポーツドクター
トップアスリートから子ども、高齢者まで幅広く診療を行う。薬の処方だけでなく運動療法を通した症状の改善を目指している。

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