脳卒中って?脳卒中になると認知症になるの? 認知症シリーズ
大阪公立大学 准教授 田中寛之
大阪公立大学 大学院生 後迫春香
2024.9.24(火)
脳卒中とは
脳卒中とは、主に下記の表のような疾患を指す総称です。いずれも、脳の中の血管にトラブルが起こることにより、脳の働きに支障をきたすことがあります。
疾患名 | 特徴 |
脳梗塞 | ・脳の中の血管が詰まる ・血管から栄養が運ばれなくなった結果、脳の組織が壊死してしまう |
脳出血 | ・脳の中の血管が破れ、出血する ・出血やそれによる周囲の圧迫により、脳の組織が壊死してしまう |
くも膜下出血 |
・脳の血管にできたこぶ(脳動脈瘤)が破裂する ・脳の表面に出血を起こす・急激な頭痛を起こすことが多い |
脳卒中により起こる症状
脳卒中では、障害された脳の部位が司っている機能に障害が現れます。
部位によって、運動機能に障害が現れ手足が動かなくなったり、感覚がわからなくなったり、言葉がうまく出てこなくなる、注意力が低下するといった種々の症状がみられます。症状の程度は、梗塞や出血の程度によって様々です。
また重症者では、意識障害などをきたすこともあります。
知っておきたい脳卒中のACT-FAST
脳卒中は、突然起こることも特徴のひとつです。
上記に挙げた症状のなかでも、顔の歪み (Face)、手の力が入らない (Arm)、呂律が回らない・言葉がでない・他人の言うことが理解できない (Speech) は代表的な症状で、1 つでも「突然」このような症状が出た場合、脳卒中の疑いがあります。
脳卒中の重症化予防の治療は、発症後数時間の間に対処が必要となることが多いです。つまり、脳卒中を疑う症状がある場合には、早急に対処が可能な病院へ向かう必要があります。
脳卒中かも?と思ったらすぐに症状がでた時刻を確認して(Time) 、それぞれの頭文字をつなげて FAST、急げということで、ACT-FAST(アクト・ファスト)、急いで行動、つまりすぐに救急車を呼びましょう、という標語が多くの国で使われています(日本脳卒中協会)。
脳卒中と認知症
「認知症」とは、様々な疾患を原因として、認知機能の低下をきたし日常生活に支障が出る状態を指します。
そして、認知症を引き起こす原因の疾患の中には脳卒中が含まれており、それは脳血管性認知症と呼ばれます。脳卒中になったからといって、必ずしも認知症を発症するわけではありませんが、脳の障害された部位や障害の大きさによっては、認知症になる危険性が高まることがあります。
脳血管性認知症の特徴
脳卒中をきっかけとして発症する為、小さな脳卒中を繰り返し再発しながら階段状に増悪していく点が特徴です。また、認知症といえば、記憶障害をあげられることが多いですが、脳血管性認知症では、記憶障害のような認知機能の障害だけでなく、初期から歩行障害や排尿障害などの身体機能の低下を認める方が多い点も特徴的です。
その他にも、脳の障害された部位に応じて、意欲の低下や言語の障害、感情のコントロールの低下など様々な症状が生じます。
脳血管性認知症の発症・進行を予防する為には、脳卒中の予防と同様の対策が有効です。脳卒中の危険因子といわれる高血圧、糖尿病、脂質異常症、不整脈などの生活習慣病の予防や治療が重要です。
ちなみに「認知症の人が、トイレでの排泄が間に合わない」という問題を時々耳にしますが、認知症のタイプによって原因が異なる可能性があることはご存知でしょうか?
例えば、脳血管性認知症とは異なる認知症タイプにアルツハイマー型認知症があります。アルツハイマー型認知症では、記憶障害によりトイレの場所がわからなくなることがよくあります。一方、脳血管性認知症では、意欲の低下や麻痺の影響で言葉が出にくくなり、尿便意を訴えることが難しくなるため、排泄が間に合わないということが原因になることもあります。
このように、同じような事象でも認知症のタイプによって原因が違うことがあり、場合によっては対応が異なることも留意しておく必要があります。
○参考・文献
厚生労働省 患者調査(令和2年)
公益社団法人日本脳卒中協会HP
田中寛之(Tanaka Hiroyuki)
大阪公立大学 医学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 准教授
高齢者・認知症の人の認知機能や生活行為などの医療・介護現場での臨床と研究に従事。
2020年より、弊社と認知症グッドプラクティスシステムの共同研究開発を実施中。
後迫春香
大阪公立大学大学院 リハビリテーション学研究科 大学院生