高齢者の肩の痛みは五十肩だけじゃない 〜腱板断裂・石灰性腱炎など見逃されやすい肩の疾患〜 後編
医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長 富岡義仁
2025.09.08(月)
前回のコラムでは最も訴えの多い五十肩についてお話ししました。しかしそれ以外にも、特に高齢者の肩には色々な疾患が隠れていることがあります。
肩の痛みを訴える高齢者の方は非常に多く、介護現場やご家庭でも、「肩が上がらない」「夜にうずくように痛む」といった声を耳にする機会は少なくありません。
腱板断裂(けんばんだんれつ)や石灰性腱炎(せっかいせいけんえん)、変形性肩関節症(へんけいせいかたかんせつしょう)などは、診断と対応が遅れると肩の機能低下を招き、着替えや洗髪、トイレ動作にも支障をきたすようになります。
本コラムでは、「肩の痛み=五十肩」で済ませず、正しい知識と適切な治療につなげるためのポイントを、整形外科専門医の視点からお伝えします。
◆ 高齢者の肩の痛み:五十肩だけじゃない
「五十肩」とは、医学的には「肩関節周囲炎」と呼ばれ、肩の関節やその周囲に炎症が起こって動きが制限される状態です。加齢とともに発症しやすく、時間はかかるものの自然に治ることもあるため、「放っておいても大丈夫」と思われがちです。
しかし、高齢者の肩の痛みには以下のような別の病気が隠れていることがあります。
■ 1. 腱板断裂(けんばんだんれつ)
肩の深部にある「腱板」と呼ばれる筋肉群が、加齢や繰り返しの負担によって部分的または完全に断裂してしまう状態です。
- 腕を挙げようとすると力が入らない
- 痛くて夜中に目が覚める (夜間痛)
- 肩が脱力して「スカッ」と抜けるような感覚がある
痛みがないまま断裂しているケースも多いのですが、特に、転倒や重い物を持ったあとに急激な痛みを訴える場合は要注意です。レントゲンには写らず、エコーやMRIで初めて発見されることが多いため、見逃されやすい疾患です。
■ 2. 石灰性腱炎(せっかいせいけんえん)
腱板の中にカルシウムの結晶(石灰)が沈着し、それが炎症を引き起こす病気です。
- ある日突然、激しい痛みが起きる
- 肩が全く動かせないほど痛い
- 熱感を伴い、夜も眠れない
痛みのピークは数日間で落ち着きますが、慢性化することもあります。レントゲンで石灰の影が見えるため、診断は比較的容易です。
■3. 変形性肩関節症
膝や股関節同様、加齢や過去の外傷により関節軟骨がすり減っていき、骨と骨が直接こすれあうようになる状態です。
- ある日突然の痛みというよりはじわじわと痛みが強くなっていく
- 可動域制限が強い
レントゲンで容易に診断が可能です。変形した骨を戻すことは現代の医療では難しいため、患者さんの日常生活レベルや状況に応じて保存加療もしくは手術を選択します。

◆ 治療方針:保存加療と手術加療
肩の疾患でも、まずは「保存加療(手術をしない治療)」から始めるのが一般的です。ただし、腱板断裂の程度や症状の持続によっては「手術加療」が必要になることもあります。
◆ 保存加療:痛みを抑えるだけでなく、動きを取り戻すことが目的
多くの方が肩の痛みを感じたとき、「とりあえず湿布」「痛み止めを飲めばそのうち治る」と思いがちです。しかし、湿布や鎮痛剤だけで済ませてしまうと、関節が固まってしまったり、筋力が落ちてしまったりして、結果的に「治りにくい肩」になってしまうことがあります。
保存加療の中心は、「リハビリテーション」と「薬物・注射療法」の組み合わせです。
■ 1. 湿布・内服薬
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、痛みや炎症を一時的に抑える効果があります。
- 湿布は局所の血流改善や軽度の消炎効果があります。
ただし、これらは「根本的な治療」ではありません。痛みを抑えてリハビリをしやすくする「準備」として使うことが基本です。
■ 2. ヒアルロン酸注射・ステロイド注射
- 肩関節内へのヒアルロン酸注射は、滑らかな動きを助け、炎症を緩和します。
- 痛みが強くリハビリができないときには、短期的にステロイド注射を使うこともあります。
■ 3. リハビリテーション
リハビリは、保存加療の中核です。
- 可動域訓練(関節が固まらないように動かす)
- 肩周囲の筋力トレーニング(特に肩甲骨周囲や腱板の筋肉)
- 日常生活動作の指導(痛みを悪化させない動き方)
痛みのために動かさないでいると、関節が固まり「凍結肩(フローズンショルダー)」と呼ばれる状態になり、さらに治療が難しくなります。リハビリは医師・理学療法士の指導のもと、症状に応じて無理なく行うことが大切です。

◆ 手術加療
保存加療を行っても改善が見られない場合、あるいは可動域制限が強い場合には、手術を検討します。一般的に以下の手術が行われることが多いです。
■ 腱板修復術(関節鏡下手術)
- 小さな切開で関節鏡(内視鏡)を使って行う手術です
- 断裂した腱を縫合し、元の位置に戻すことで、機能回復を目指します
■人工関節置換術
- 腱板断裂や関節の変形が重度な場合は人工関節の適応となります。ただし年齢などいくつか条件があり、また学会が定めた施設・医師しか施行することはできません。かかりつけ医にぜひご相談ください。
術後には一定期間の装具固定とリハビリが必要ですが、成功すれば痛みの大幅な軽減や機能回復が期待できます。

◆ 介護・家庭での観察ポイント
介護の現場で肩の疾患を早期に気づくことができれば、進行を防ぐことが可能です。以下のようなサインを見逃さないようにしましょう。
- 腕を挙げにくそうにしている
- 髪をとかす・服を着るときに痛がる
- 夜中に肩の痛みで目が覚めている
- 動かさない方の肩より明らかに筋肉がやせてきた
こうした兆候があれば、整形外科の受診を促し、必要に応じて画像検査(エコーやMRI)を受けることが勧められます。

◆ まとめ
高齢者の肩の痛みは、「五十肩」とひとくくりにされがちですが、腱板断裂や石灰性腱炎など、適切な診断と治療が必要な疾患が少なくありません。湿布や痛み止めだけで症状をやりすごすのではなく、リハビリを含めた包括的な保存加療が、機能回復への鍵となります。
肩が自由に動くことは、日常生活の自立を支える基本です。痛みを「年のせい」と片づけず、早めの対応と継続的なケアで、大切な肩の機能を守っていきましょう。
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富岡義仁
医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長
整形外科専門医
国際オリンピック委員会公認スポーツドクター
トップアスリートから子ども、高齢者まで幅広く診療を行う。薬の処方だけでなく運動療法を通した症状の改善を目指している。
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示>湿布や痛み止めだけで症状をやりすごすのではなく
確かに・・・
15年程前に肩や背骨付近の痛みがなかなかの状態だったので近所のクリニックでMRIを撮ってもらったら
「ヘルニアですね~、(画像を見ながら)こことここの間のここのところがぷちゅッとなってるでしょ?これが神経に触って痛みが出るので、手術でこの部分を切除すると痛みはなくなりますよー」
的なことを言われて、とりあえず痛み止め出して様子見るように言われました。
“手術で切ったら痛み無くなる”
とか
“とりあえず痛み止め”
とか💦別に痛みを止めてほしいっていうか、痛みの原因を治してほしいのに、そんなことをおっしゃるので、『あぁ、このお医者さんはヘルニアをよう治さんのや・・・』とお察しして、MRIのデータだけもらってそのお医者さんはそれっきりにさせて頂きました。
その後、当時神戸の道場に通ってた時のその道場のボスが整体の仕事をやってたのでこのことを話すと「ヘルニアやったら3分で治したげるで」って言うので『ホンマかいな』と思いながらもお願いしたら、その辺り(患部)への攻撃(笑)は一発だったので、実質3秒以内で治りました笑笑
まあ、痛み止めは麻酔的な感じですし、湿布は気休め程度に考えるぐらいがいいと思います笑笑