ロコモ・フレイル:高齢者の健康寿命を延ばすために
医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長 富岡義仁
2024.11.11(月)
前回の骨粗鬆症のお話でも少しだけ触れた、高齢者の健康寿命を脅かす大きな要因である「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と「フレイル」について解説し、その診断と治療、そして私たちにできる予防策についてお話しします。
ロコモティブシンドローム(ロコモ)とは?
ロコモとは、「運動器の障害のために移動機能が低下し、要介護になるリスクの高い状態」のことです。加齢とともに筋肉や骨、関節などが衰え、歩行や階段の上り下り、立ち上がり動作などが困難になります。進行すると、外出の機会が減り、閉じこもりがちになり、生活の質が低下するだけでなく、要介護状態に陥りやすくなります。
ロコモの診断
ロコモの診断には、以下のテストがよく用いられます。
- 立ち上がりテスト: 椅子に座った状態から、手を胸の前で組み何回で立てるかをみます。
- 2ステップテスト: 2歩でできるだけ大股で歩き、その距離を測定します。
- 片脚立ちテスト: 目を開けて片足で何秒間立っていられるかを測定します。
これらのテストは、特別な機器を必要とさず、自宅でも簡単に実施できます。
詳細な方法や評価は日本整形外科学会のホームページにわかりやすくまとめられていますので、ぜひ参考にご覧ください。
https://locomo-joa.jp/check/test
ロコモのリスク
ロコモのリスクを高める要因としては、以下のようなものがあります。
- 加齢
- 運動不足
- 栄養不足(特にタンパク質不足)
- 肥満
- 骨粗鬆症
- 関節疾患
- 転倒による骨折
ロコモの改善方法
ロコモの改善には、以下の方法が有効です。
運動療法
筋力トレーニングやストレッチなど、個々の状態に合わせた運動プログラムを作成し、無理なく継続することが大切です。身体に痛みがない場合は積極的に運動をするようにしましょう。立位が難しい場合は、座って上半身の運動をするだけでも効果はあります。
栄養指導
タンパク質やカルシウム、ビタミンDなど、骨や筋肉の健康に必要な栄養素をバランスよく摂取する必要があります。日本においては、特に偏った食事でなければ日頃の食事で十分に賄えるものかと思います。
薬物療法
上記栄養に加え、骨粗鬆症や関節疾患など、基礎疾患がある場合は、適切な薬物療法が必要です。
生活習慣の改善
適度な運動、バランスの取れた食事、禁煙など、健康的な生活習慣を心がけることが重要です。
フレイルとは?
フレイルとは、「加齢に伴い心身が老い衰えた状態」を指します。細かく分類すると様々なフレイルがあるのですが、専門的すぎてしまうので割愛します。
体力や気力の低下、食欲不振、体重減少、認知機能の低下、うつ症状など、様々な症状が現れます。ロコモと密接に関係しており、ロコモが進行するとフレイルのリスクも高まります。
フレイルの診断
フレイルの診断には、以下の項目を含む質問票や検査が用いられます。
- 体重減少
- 握力低下
- 歩行速度低下
- 疲労感
- 身体活動量の低下
現在世界的にも、また日本でも最もよく使用される診断はFriedらの提唱したCHS(Cardiovascular Health. Study)基準があります。Friedらは身体的フレイルの定義として、1)体重減少、2)疲労感、3)活動量低下、4)緩慢さ(歩行速度低下)、5)虚弱(握力低下)、の5項目を診断基準として、3つ以上に当てはまる場合はフレイルとして診断し、1つまたは2つ該当する場合はフレイル前段階としました。
フレイルのリスク要因
フレイルのリスクを高める要因としては、以下のものがあります。
- 加齢
- 慢性疾患
- 多種類の薬剤服用
- 低栄養
- 運動不足
- 社会的な孤立
- 認知機能の低下
フレイルの改善方法
フレイルの改善には、以下の方法が有効です。
栄養改善
ロコモ同様タンパク質やビタミン、ミネラルなど、必要な栄養素をバランスよく摂取することが重要です。
運動習慣
軽い運動や散歩など、無理のない範囲で体を動かす習慣をつけましょう。
社会参加
地域活動やボランティアなどに参加し、人との交流を持つことが大切です。
口腔ケア
口腔環境の悪化は、全身の健康にも影響を与えるため、適切な口腔ケアが必要です。
ロコモ・フレイル予防の重要性
ロコモやフレイルは、早期に発見し、適切な対策を講じることで、進行を遅らせたり、改善したりすることが可能です。
加齢の様に避けられないものもありますが、運動習慣や栄養摂取など、普段からの心がけで充分に対策が取れるものもあります。
また、個室に一人でいる時間を無理のない範囲で少なくし、社会的な交流を多く保つことは心身の健康の上で非常に重要です。
介護が必要な状態になることを予防し、健康寿命を延ばすためにも、日頃からロコモ・フレイル予防を心がけましょう。
介護職員や高齢の家族がいる方は、ぜひこれらの情報を参考に、高齢者の健康維持・増進に努めていただければ幸いです。
富岡義仁
医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長
整形外科専門医
国際オリンピック委員会公認スポーツドクター
トップアスリートから子ども、高齢者まで幅広く診療を行う。薬の処方だけでなく運動療法を通した症状の改善を目指している。