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在宅介護と施設介護の選択 - それぞれのメリット・デメリットと決断のポイント 前編

医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長 富岡義仁

2025.04.07(月)

在宅で介護を続けるか、施設に入所するか - この決断に悩む方は少なくありません。
私は医師として、多くの患者さんやご家族からこの相談を受けてきました。「できるだけ家で看たい」「でも、このまま在宅を続けていけるだろうか」という不安の声をよく耳にします。

2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況によると、骨折などの整形外科疾患は介護が必要となった主要因の第3位となっております。

*厚生労働省 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況より

今回は、両者の特徴を詳しく解説し、選択する際の重要なポイントをお伝えしたいと思います。

前編となる今回は、在宅介護と施設介護についてお話しさせていただきます。


在宅介護の特徴



【メリット】


1. 住み慣れた環境での生活継続

要介護者にとって、長年過ごしてきた自宅での生活は何より心地よく、安心できるものです。自宅におけるあらゆる要素はその人のアイデンティティを支える大切なものとなっています。認知症の方にとっては特に、見慣れた環境で過ごすことが混乱を防ぎ、穏やかな気持ちを保つことにつながります。

2. 家族との時間の共有

「最期まで一緒に過ごしたい」という思いは、介護する側もされる側も同じではないでしょうか。家族と共に過ごす何気ない日常の中には、かけがえのない時間が詰まっています。たとえ介護の大変さはあっても、この時間を共有できることは大きな励みとなるはずです。施設入居により足が遠のいてしまう、孤独にさせてしまうのではないか、といったご家族の不安はよく耳にします。

3. 柔軟な介護スケジュール

「今日は調子が悪いから、もう少し休ませてあげたい」「天気がいいから、庭で日向ぼっこを楽しもう」など、その日その時の状況に応じて柔軟に対応できることは、在宅介護の大きな利点です。要介護者の体調や気分に合わせて、無理のないペースで生活を組み立てることができます。

4. 経済的な負担が比較的軽い

施設入所に比べ、一般的に月々の負担は少なくなります。介護保険サービスを上手に活用すれば、さらに負担を抑えることも可能です。ただし、住宅改修や介護機器の購入など、初期費用が必要になる場合もあります。住宅改修費用などはお住まいの市区町村からの援助がでることもありますので、ぜひ担当の役所へご相談いただくとよいかと思います。


【デメリット】


1. 介護者の負担が大きい

在宅介護の最大の課題は、介護者の負担の大きさです。「今日も眠れなかった」「自分の体調も限界」という声をよく聞きます。特に認知症の方の介護では、夜間のひとり歩きや昼夜逆転への対応に疲弊してしまうことも少なくありません。また、介護は予測不可能な事態の連続です。突然の体調変化や予期せぬ事故への対応に、常に神経を張り詰めていなければなりません。

以前のコラムでもご紹介しましたが、介護者の腰痛や肩痛も訴えが多くあります。家族の時間を取ろうと思い在宅介護を選択されても、認知症の要介護者との間でいさかいが絶えず、仲違いをされ、良い気持ちでお別れすることができなくなってしまうケースも散見されます。

2. 介護者の社会生活への影響

「仕事を辞めざるを得なかった」「友人との付き合いが減った」という声も多く聞かれます。介護に時間を取られることで、自身のキャリアや人間関係に大きな影響が出ることがあります。特に働き盛りの世代が親の介護を担う場合、仕事との両立に悩むケースが増えています。また、自分の時間が持てないストレスから、うつ状態になってしまう方もいます。

3. 緊急時の対応に不安

「夜中に急変したらどうしよう」という不安は、多くの介護者が抱えているものです。医療的な知識や経験が不足している中での判断は、大きな精神的負担となります。特に要介護者に心疾患や呼吸器疾患がある場合、急変時の対応の遅れが重大な結果につながる可能性もあり、その不安は一層大きくなります。


施設介護の特徴



【メリット】


1. 専門的なケアの提供

介護職員や看護師が24時間体制で常駐していることは、大きな安心感につながります。「プロの目で見てもらえる」という安心感は、家族の精神的な負担を大きく軽減します。誤嚥性肺炎や褥瘡など、専門的な処置が必要な場合、医療機関への受診・入院の必要性の判断等、迅速かつ適切な対応が可能です。

2. 介護者の負担軽減

「やっと眠れるようになった」「自分の生活を取り戻せた」という声をよく聞きます。介護の重圧から解放されることで、家族自身の健康を取り戻すことができます。また、施設に入所した後も定期的に面会に行くことで、より良質な時間を要介護者と共有できるようになったという方も多くいらっしゃいます。適度に付かず離れずな環境を保つことで関係が良くなることも多々あるかと思います。

3. 安全な環境整備

施設では、手すりの設置や段差の解消、緊急通報システムの完備など、介護に特化した設備が整っています。また、入浴や排泄などの介助も、専門的な技術と設備を用いて安全に行われます。自宅では対応が難しい事故予防の面でも、充実した体制が整っています。

4. 社会性の維持

「施設に入ってから表情が明るくなった」という声を聞くことも少なくありません。在宅でも24時間つきっきりというわけにもいきませんので、仕事などで外出している時間は要介護者の方は一人で過ごすことになってしまいますが、施設入居していればレクリエーションや行事への参加、他の入所者との交流を通じて、新たな人間関係を築くことができます。これは認知機能の維持にも良い影響を与えます。


【デメリット】


1. 経済的負担

入所費用、食費、居住費など、月々の支出は決して少なくありません。「年金だけでは足りない」「貯金を切り崩している」という声も聞かれます。特に要介護度が低い場合、介護保険からの給付額も限られるため、自己負担が大きくなることがあります。

2. 環境の変化によるストレス

要介護者が慣れ親しんだ環境を離れることは、大きなストレスとなります。特に認知症の方の場合、環境の変化により一時的に症状が悪化することもあります。「知らない場所で寂しい思いをさせているのでは」という後ろめたさを感じる家族も少なくありません。

3. プライバシーの制限

食事、入浴、就寝など、基本的な生活リズムは施設のスケジュールに合わせる必要があります。「もう少しゆっくり寝ていたい」「好きな時間に入浴したい」といった個人の希望に、必ずしも沿えない場合があります。また、個室であっても、完全なプライバシーの確保は難しい面があります。

いかがでしたでしょうか。これらのメリット・デメリットをふまえ、要介護者が実際に介護を必要とする前から家族間で話し合いをしていくことが重要です。

要介護者の希望を叶えることも重要ですが、それを実際に行うのは介護者です。決してご自身をないがしろにすることなく、それぞれの家庭にとってのベストを探す一助になれば幸いです。

 


富岡義仁
医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長
整形外科専門医
国際オリンピック委員会公認スポーツドクター
トップアスリートから子ども、高齢者まで幅広く診療を行う。薬の処方だけでなく運動療法を通した症状の改善を目指している。

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