サプリの部屋

知っ得コラム

介護をする側が注意すべき腰痛

医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長 富岡義仁

2025.03.03(月)


はじめに


介護の現場では、持ち上げ動作や中腰姿勢による腰部への負担が避けられず、日常の外来でもよく患者さんとしていらっしゃいます。介護する側の健康管理、特に腰痛予防は、良質な介護を継続するために極めて重要です。今回のコラムでは腰痛を引き起こす危険動作や予防法についてお話します。


腰痛を引き起こす危険な動作と正しい姿勢には以下のようなものがあります。


1. 抱え上げ動作

  • 膝を曲げずに前かがみで抱え上げる×
  • 膝を深く曲げ、背筋を伸ばして抱え上げる〇
  • 可能な限り介護リフトなどの補助具を活用

 

2. 移乗介助

  • 要介護者から離れて腰をひねる×
  • 要介護者に近づき、腰をひねらない姿勢で〇
  • 足の位置を小刻みに動かし、体の向きを変える

 

3. 長時間の中腰姿勢

  • 背中を丸める×
  • 片膝をつく、または低い椅子を使用〇
  • 定期的に姿勢を変える

左図は膝を曲げずに物を持とうとしています。右図はそれに加えて物からの距離が遠くなっています。こういった姿勢は非常に腰に悪いです。また朝顔を洗うようなときも無防備に腰を曲げてしまうとピキッと痛めてしまうかもしれません。

このように、①物に正対して近づき、②しっかりと膝を曲げ、③背中が丸まらないような姿勢で、④腹筋に力をいれて持ち上げることが重要です。

業務中はコルセットを使用するなど、できるだけ腰に負担がかからないように装具に頼ることも有効です。

同じ姿勢を取り続けることも良くないとされています。立ちっぱなしや座りっぱなしにならないよう、こまめに体制を変えましょう。


効果的な予防ストレッチ


1. 腰背部のストレッチ

  • 四つ這いになり、お尻を踵に近づける
  • 20秒キープ、3セット
  • 朝晩の実施を推奨

 

2. ハムストリングスのストレッチ

  • 仰向けで片足を上げ、膝を伸ばす
  • 足首に手を回し、足先を手前に引く
  • 各足20秒ずつ、2セット

 

3. 骨盤まわりのストレッチ

  • 仰向けで膝を立て、片方の足首を反対側の膝に乗せる
  • 下の足を抱え込む
  • 各方向20秒、2セット

筋力トレーニング


1. 体幹の安定化運動

  • ドローイン:お腹を凹ませる
  • 5秒維持、10回を2セット
  • 日常生活でも意識する

 

2. ブリッジ運動

  • 仰向けで膝を立て、お尻を上げ下げ
  • 10回を3セット
  • 腰痛予防の基本エクササイズ

 

3. スクワット

  • 足幅は肩幅、つま先は30度外向き
  • 膝が足先より前に出ないよう注意
  • 10回を2セット、毎日実施

トレーニング、ストレッチについては私が副院長を務めるリオクリニックのインスタグラムでも動画で紹介していますので、ぜひ御覧ください。

https://www.instagram.com/rioclinic0403/


腰痛発症後のQ&A


Q1:安静にすべきか、それとも動いた方がよいか?

A1:急性期(発症後2-3日)は安静が基本ですが、完全な寝たきりは避けましょう。痛みの範囲内で軽い運動や日常生活動作を行うことが推奨されています。よく患者さんには「治そうとして歯を食いしばって運動するのは良くないですが、日常生活は無理のない範囲でつづけてください」とお伝えしています。

Q2:湿布は貼った方がよいか?

A2:湿布によって治るわけではありませんが、一般的な腰痛においては疼痛を軽減することはできると考えますので、使用しても構いません。ただし、後述のように運動療法等で根本的な治療を行うことが根治かつ再発予防のために重要です。

Q3:冷やしたほうがよいか、温めたほうが良いか?

A3:急性期は冷却、慢性期は温熱が効果的です。そのため、急性期にあまり湯船に長時間浸かると炎症が悪化するリスクがありますので避けてください。受傷後3日程度から湯船を許可することが多いです。

Q4:どんな症状なら病院を受診すべきか?

A4:Red Flagと呼ばれる以下のような症状がある場合は要注意です。通常の腰痛だけでなくなにか重篤な問題が隠れている可能性があります。かならず病院を受診しましょう。

  • 発症年齢<20歳未満、または>55歳以上
  • 時間や活動性に関係のない腰痛 
  • 胸部痛 
  • 癌、 ステロイド治療、 HIV感染の既往
  • 栄養不良
  • 体重減少
  • 広範囲に及ぶ神経症状
  • 背骨の変形
  • 発熱

 

Q5:病院ではどんなことをするか?

A5:まずは問診、身体所見から腰痛の原因や部位、重症度を判別します。レントゲン検査で骨の並びや骨折の有無をチェックします。上記のようなRed Flagがあったり、症状が強い場合はCT,MRIなどの精査を行うこともあります。

治療としては機械による治療で炎症の軽減や筋緊張の緩和を図ったり、消炎鎮痛剤による疼痛管理を行います。疼痛が強い場合には注射を行うこともあります。最も重要なことは運動療法を行うことです。クリニックによっては電気を当てるだけしか行わないケースもありますが、疼痛の早期コントロールや再発予防のために理学療法士に身体の動かし方やトレーニング方法、メンテナンス方法を教わる運動療法が最も重要と考えております。

また、現代日本では老老介護の問題も取り沙汰されています。特に65歳以上の女性が急な腰痛になった場合は整形外科クリニックにてレントゲンを撮影してみましょう。また要介護者だけでなく、介護をする側も骨密度の検査をおすすめします。骨粗鬆症についてはこちらでお話しておりますのでぜひ御覧ください。

📔 骨粗鬆症の概要:高齢者ケアにおける重要性
📔骨粗鬆症の診断と治療:高齢者の健康を守るために


予防のための生活習慣


1. 体重管理

適正体重の維持が腰への負担軽減に重要です。体重が1kg増えると歩行時は3kg、階段昇降で7kg前後の負担増といわれています。ダイエットを運動だけで行うことは難しく、食生活にも気を使っていただきたいとおもいます。逆に痩せすぎも骨がもろくなったり、体力の低下にもつながります。

2. 睡眠環境の整備

適度な硬さの寝具選びは意外と盲点であることが多いです。マットレスや敷布団が柔らかすぎても硬すぎても腰には負担がかかります(特に柔らかすぎは注意)。敷布団の耐用年数は7年前後とされていることが多く、長期間使用されている方は買い替えも検討しましょう。布団売り場には体圧分散を計測してくれる機械があることもありますので、ご自身にあった硬さや厚さのものを選んでください。横向き寝の場合は膝の間に抱き枕を挟むのも有効でしょう。

3. 作業環境の改善

  • 介護ベッドの高さ調整
  • 滑りやすいシーツの使用
  • 移乗用具の適切な選択と使用

上記のように、自分の身体だけでなく周囲の環境の調整も非常に重要です。忙しいとなかなか手がまわらずつい急に動いてしまいがちですが、注意して一つずつチェックしてみてください。


おわりに


腰痛予防は、正しい知識と日々の実践が鍵となります。無理のない範囲で継続的に取り組むことで、介護の質を維持しながら、自身の健康も守ることができます。体調の変化には早めに気付き、適切な対処を心がけましょう。

出典:腰痛診療ガイドライン

 


富岡義仁
医療社団法人山手クリニック リオクリニック 副院長
整形外科専門医
国際オリンピック委員会公認スポーツドクター
トップアスリートから子ども、高齢者まで幅広く診療を行う。薬の処方だけでなく運動療法を通した症状の改善を目指している。

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